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柴崎友香『週末カミング』

映画『君たちはどう生きるか』

1年前に公開された話題作。宮崎駿監督の映画はどの作品も話題を集め人気のようだが、自分は興味を覚えず、今まで観たことが無い。今回、山本昭宏『変質する平和主義──<戦争の文化>の思想と歴史を読み解く──』のなかで、この映画を日本社会の精神史を読み解く資料のひとつとして取り上げていたので観ることにした。アカデミー賞受賞など、内外の評価も高い映画なので期待もしていたが、自分には期待外れだった。先の戦争が時代背景となってはいるが、その戦争についてはあまり触れられることもなく、全体のストーリーにも戦争の影響は薄い。そもそも軍需工場の経営者の家計に育つ裕福な家系に育つ少年が主人公ということで感情移入が難しい。しかもエディプスコンプレックスを匂わせる古典的でステレオタイプな性格設定。「サイパンがあんなに早く陥落するなんて。でもおかげでこちらは商売繁盛...」と言い放つような父親に心を閉ざす少年だが、その葛藤の向かう先は父親ではなく自傷行為という情けなさ。(自己責任の病というべきか)。終盤に登場する大叔父が、子孫である少年に自らの夢を託そうとするのも家父長的で古臭い。そんな少年が、清濁併せ持つこの世界で懸命に生きていこうと決意する成長物語、というところか。この映画に喝采を送る人たちは、一体どの場面に心を揺さぶられるのか不思議でならない。


監督:宮崎駿、2023、『君たちはどう生きるか』
映画視聴日:2024年7月2日
映画館:グランドシネマサンシャイン池袋

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