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木田滋夫『下山事件──封印された記憶──』

もしタイムマシンがあったらどの時代に行きたいか、と問われたら、1949年7月5日午前9時半の日本橋三越、と迷わずに答える。下山事件を知ったのは、1980年放送のNHKドラマ『空白の900分―国鉄総裁怪死事件―』を見た18歳の頃だった。下山総裁を演じたのは小林桂樹。事件の不可解さと怖ろしさがずっと心に残った。そして下山事件に再び惹きつけられたのは20年前ぐらいであったか。本屋で平積みされていた森達也の『下山事件(シモヤマ・ケース)』を偶然手に取ったことがきっかけだった。それ以降、事件に関連する書籍、映画、テレビドラマを漁ってきた。戦後最大のミステリーであり未解決の事件。轢死体、遺留品、虚実が入り混じる数多の証言、下山を取り巻く様々な人物たち、トリックが幾重にも重なり、出口が見えたと思えばまた暗闇に放り込まれる。そして何よりもこの事件に漂う「敗戦の香り」に強くひかれる。

事件から75年経ち、流石に新たな事実や資料は出てこないであろうと思っていたが、この本はそんな予想をいい意味で裏切ってくれた。著者は読売新聞記者。本来の仕事の傍らで事件取材を長年にわたって続けてきたという。その執念と人脈と偶然が重なって得られた情報を考察し事件の真実に迫っている。なかでも新たに見つかった当時の捜査を取りまとめたガリ版資料と、事件発生1年後に公開された「下山白書」との比較が素晴らしい。恣意的に自殺説を唱える「白書」への嫌疑が深まる。もちろん断定はされてはいないが、事件は他殺であり、権力側の謀略であったという見立てを強く匂わせている。

「下山事件が権力側による謀略だったかどうかは定かではないが、事件への関与が指摘される側と、操作する側の警察は、少なくとも幹部レベルでは濃密な接点を持っていたということは言えるだろう。そして、この人脈を結びつけていたのは「反共」という強い意志だった」(木田 2024、201)。

木田滋夫、2024、『下山事件──封印された記憶──』、中央公論新社。


今まで読んできた下山事件関連の本たち↓


本書に紹介されていた、下山の死体が見つかった五反野付近の常磐線ガード下にある「下山国鉄総裁追悼碑」を見に行った。東武線五反野駅を降り、事件当日の午後、下山らしき人物が訪れたとされる末広旅館があった場所を通り、「下山国鉄総裁追悼碑」を目指して歩いた。碑には、缶コーヒーや花が咲いたプランターが置かれていた。




死体発見現場には今も常磐線が走る




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