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吉田裕『兵士たちの戦後史──戦後日本社会を支えた人びと──』

冒頭、本書の目的が2つあげられている。「戦争の時代をより深く理解するためには、その戦後史を視野に入れる必要がある」、「生き残った兵士たちの様々な営為が、戦後日本の政治文化を社会の奥深いところで規定している」(吉田 2020、4)。戦前と戦後は歴史上分断しているように思いがちだが、言うまでもなく人びとの営みは連続性のなかにある。戦争を考える場合、戦争の時期だけを掬いとっても現代に通じる問題は見えてこないのだ。いくつか論点をピックアップする。「社会全体の復員兵に対する態度は冷ややかなものだった」(吉田 2020、33)。戦後、軍部に対する反発が復員兵に向けられた。まさに、手のひら返し、世論の豹変ぶりに恐ろしさを感じる。講和発効後まもなくに復活した軍人恩給。各地の戦友会など組織が政権との距離を縮めるなかで大幅増が進む。他方遺骨収集には消極的姿勢が続く。「「死者は票にならない」といわんばかり」(吉田 2020、202)。また捕虜になった者への恩給差別には驚く。「戦陣訓」が戦後に生きているのだ。元兵士たちが戦争を語ることをためらう理由も考えさせる。「遺族への配慮」、自分だけが生きて帰ったという負い目、戦友会が証言を抑制する機能を持っていること。ましてや加害の証言など困難なのであろう。それでも、元兵士たちの戦時・戦後経験に歴史的意味を持っていたとする。「第一には、戦争という行為の悲惨さや虚しさを身をもって体験し、「帝国陸海軍」がいかに非人間的・非合理な組織(中略)であったかを知りぬいた多数の人々がこの社会に存在していたこと自体の重み」(吉田 2020、342)。「第二には、彼らが過激なナショナリズムの温床とはならなかったこと」(吉田 2020、343)。「第三には、戦争や戦場の生々しい実態についての記録や証言を(中略)残してくれたこと」(吉田 2020、344)。これらが危険な方向へ流れる動きへの歯止めとなって、戦後の日本社会を支えていたことは紛れもない事実だ。

吉田裕、2020、『兵士たちの戦後史──戦後日本社会を支えた人びと──』、岩波書店。

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