最新の投稿

岸本佐知子『死ぬまでに行きたい海』

記録をひらく 記憶をつむぐ

「記録をひらく 記憶をつむぐ」というタイトルでは一体何を展示しているのか分からない。目立つような宣伝もしていない。戦前戦中の戦争記録画を中心に展示した企画展。荒れることを微妙に避けたのでは、と勘繰りたくなる。プロパガンダを目的に国が画家たちに描かせた絵画の数々。当時も新聞やラジオはあったが、視覚から感情に訴える絵画の力が利用されたのだろう。実際、藤田嗣治《アッツ島玉砕》などは「玉砕」のイメージを強烈に国民に植え付け、復讐の感情を掻き立てる効果を果たしたのは想像に難くない。それらの戦争記録画は戦後GHQに接収されアメリカに保管。1970年に無期限貸与という形で日本に返還されたものだという。アンリ・ルソーやシャガールの作品かと見紛うような西洋絵画の影響をもろに受けたようなものも目立つ。当時の画家たちはどんな気持ちで戦争記録画を描いたのか。生活のためか、自らの技量を上げるためか、戦争協力への後ろ暗さは無かったのか。猪熊弦一郎《長江埠の子供達》中国の子供達を描いた作品。こちらを見る子供達の視線はとても冷ややかに見える。これをよく軍部が認めたものだ。伊原宇三郎《特攻隊内地基地を進発す(一)》これは典型的な戦意高揚ものだが、日の丸を振り万歳する市民のなかに振り返る少女の目に射抜かれる。画家たちは自らの心の内を絵の細部にそっと忍び込ませているのではと思わせる。



猪熊弦一郎《長江埠の子供達》

伊原宇三郎《特攻隊内地基地を進発す(一)》


国立近代美術館
訪問日:2025年9月25日

コメント