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新刊の長編小説を買って読むのは久しぶり。柴崎友香が「探偵小説」? その意外性と不似合いな印象以上に、どんな物語を見せてくれるのかと食指が動いた。「今から10年くらいあとの話」という文章で語られる探偵の冒険譚。章ごとに場面が変わる展開は、どこか村上春樹の長編小説に似た趣きもある。日本と思しき探偵の生れ育った国は、統治体制が変わり、国際的な条約や機関から脱退し、人々の移動や通信を制限した。探偵はこの国に帰ることができなくなったのだ。この体制の変更に目立った抗議活動もおこらなかったことも恐ろしい。巨大プラットフォーマーと結びついた徹底した情報統制が敷かれる監視社会。そのディストピアは探偵が滞在する世界各地においても静かに進行する。10年という時間の物差しを想像する。今から10年前の2015年、集団的自衛権の行使を可能とする安保法制が成立した。10年後の今は、もはやその前提で軍事費拡大が然したる反対もないままに進行する。10年は短いようで人々が気づかないうちに少しづつ、しかし確実に変容する。2035年は果たして。「想像することは未来を考えるために必要なんだ」
柴崎友香、2025、『帰れない探偵』、講談社。
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