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連合艦隊司令長官山本五十六、真珠湾攻撃を指揮、「壮烈なる」撃墜死、国葬に付された国民的英雄。山本を評した本は数多あり、その大半は英雄伝とでも言うべきものかと思う。この本は、山本の思想的な側面を資料や証言等から掘り下げ、彼の胸中に去来したものは何だったのかを探る論考となっている。山本は長岡出身。「太平洋戦史を俯瞰しておけば、官軍系出身の軍人が始めた戦争を賊軍と言われた軍人が終息させたといった言い方もできる」(保阪 2025、16)。ちなみに「山本の伴侶は会津藩士の娘で、三橋礼子」(保阪 2025、20)。山本は三国同盟や対米強硬路線に反対し、開戦後も短期決戦による講和と和平実現を望んでいた。しかし山本のそうした早期講和を望む側面が一般に知られることはなかった。撃墜死の状況も巧妙に隠蔽された。実際には「壮烈なる」という形容は相応しいものではなかった。死後、上層部は山本家からあらゆる資料を持ち去った。「山本が、この戦争をどう考えていたかが公表されることを極端に恐れていたのである」、「「山本の戦死」の周辺にいた兵士たちは皆、口止めされるか、苛酷な前線に送られている」(保阪 2025、172)。戦争における情報統制の何と恐ろしいことか。本書はそうした山本の無念の心中を好意的に論じたものだ。しかし、どんな人間も硬軟両様、相反する考えを持っているものではないか。日本を戦争の熱狂に巻き込んだ軍人としての山本の罪が減ぜられることはない。
保阪正康、2025、『山本五十六の戦争』、毎日新聞出版。
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