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小説家である「私」、ものを書けなくなり、収入が減り、同居していた女性に去られ、酒を痛飲し、自殺願望がよぎる。紛ごうことなき典型的な私小説。しかし一方でどこまで深刻なのか掴みどころがない。質素ながら食事は蛋白質に拘わり、閣僚の核兵器容認発言のニュースに耳をそばだてる。実家の母の愛情にも恵まれ、特段の出来事もなく、ある意味穏やかな日常にも見える。すべては作者の皮肉をこめた仕掛けなのかも。「読んだ側を不安にさせるのも文学の重要な役割ではあるんだろう」(田中 2019、143)。まさにその不安感がこの作品の魅力だ。
田中慎弥、2019、『ひよこ太陽』、新潮社。
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