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もはやどんな小説だったのか覚えてはいないが、二人称小説と言えば倉橋由美子の『暗い旅』を思い出す。この小説の主人公も二人称「あなた」が使われている。しかも、主人公の会話も、声に発しない思いも、動作描写も、ごちゃまぜに句読点だけでつないでいる文章となっていて読み難い。表現技巧としてそれを選択したのであろうが、どんな効果を狙ったのか分からない。内容はショッピングセンターの喪服売り場で働く、子育てがひと段落ついた中年女性の日常のひとこま。自分の存在理由を見失い、不要な存在になることを怖れ、戸惑う主人公の姿が描かれる。登場する人物は主人公も含めて皆、特に生活に困窮するでもなく比較的恵まれているように映る。主人公の懊悩に共感を覚えることはないし、現代社会の断面が描かれているわけでもない。なぜこれが芥川賞に選ばれるのか理解できない。
井戸川射子、2022、『この世の喜びよ』、講談社。
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