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柴崎友香『週末カミング』

市川沙央『ハンチバック』

冒頭、htmlタグ付きの、猥雑な文章で始まる。現代の風俗の一辺を切り取り、露悪的に描写しているところは、ある意味典型的な芥川賞受賞作の特徴とも読める。だがこの作品が他と決定的に異なるのは、主人公が、作者自身と同じ先天性ミオパチーをかかえていること。優等生の火遊びを描いたような小説とは訳が違うのである。「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店に自由に買いに行けること、──5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢さを憎んでいた」(市川 2023、27)。読み手に冷水をあびせ、毒づき、挑んでくる。

市川沙央、2023、『ハンチバック』、文藝春秋。

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