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中島岳志『思いがけず利他』

ちょっと変わったタイトルだがずっと気になっていた本。期待にたがわぬ好著だった。

自己責任論が蔓延し、人間を生産性によって価値づける社会を打破する契機が、「利他」には含まれている(中島 2021、6)

しかし同時に、「利他」には、偽善、支配、利己などといった様々な困難が伴うと中島は論じる。古典落語「文七元結」を演じる立川談志の葛藤に「利他」の本質を見出す件は特に興味深い。

自分はどうしようもない人間である。そう認識した人間にこそ、合理性を度外視した「一方的な贈与」や「利他心」が宿る。この逆説こそが、談志の追求した「業の肯定」ではないでしょうか(中島 2021、55)

利他は偶然への認識によって生まれる(中略)私の存在の偶然性を見つめることで、私たちは「その人であった可能性」へと開かれます。そして、そのことこそが、過剰な「自己責任論」を鎮め、社会的再配分に積極的な姿勢を生み出します。ここに「利他」が共有される土台が築かれます(中島 2021、145)

まさにそうした土台が築かれた社会を自分も希求する。

中島岳志、2021、『思いがけず利他』、ミシマ社。

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