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昨年5月に開催された広島サミットで、岸田首相が発表した「広島ビジョン」には失望した。「核兵器のない世界」を目指すとしながらも、「核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たす」と核抑止論に立脚したものだったからである。岸田首相の言葉には被爆地広島への理解は感じられない。歴史や実相に真摯に向き合うことなどしてこなかったのであろう。本書は、日本が「核のない世界」を望んでいるのか、歴史を追って考察を図ったものだ。核に対する日本の認識は3つの二面性があると指摘する。1)「核兵器と原子力発電とを峻別し、前者を否定し、後者を肯定する」(山本 2021、210)、2)「危険だと知りながら、核戦争も原発事故も起こらないと信じている」(山本 2021、211)、3)「核エネルギーの実用化が根本的な不正義を抱え込む巨大産業としてこの世界に埋め込まれている」(山本 2021、212)という。そうした認識の上で、日本が望んでいるのは、「核兵器のない世界を誰かがつくってくれること」に過ぎない(山本 2021、5)と断罪する。
山本昭宏、2021、『原子力の精神史──<核>と日本の現在地──』、集英社。
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