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最愛の母を亡くした青年が、AIによって蘇えらせた<母>と会話をする。近未来2040年代の日本を舞台にした小説。その社会は貧困と差別が猖獗するディストピア。<自由死>と名付けられた自死の制度すら存在する。底辺に喘ぐ主人公が自制的に、そして自省的に生をつないでいく姿は時に自分を投影してしまう。加えて裏磐梯の諸橋美術館、池袋、祖師ヶ谷大蔵と登場する場所もまた自分には近しい。
一体、愛する人の記憶は、何のために、その死後も残り続けるのだろう?(平野 2021、330)
平野の現代社会に対する批判的な視点も十分に伝わってくる。テクノロジーに支配された世界を舞台とはしているが、一貫して焦点があたっているのは他ならぬ人間の心だ。新たな希望を予感させて物語は終わる。久しぶりに小説の多義性とストーリーの面白さを味わえた。
平野啓一郎、2021、『本心』、文藝春秋。
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