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柴崎友香『週末カミング』

三浦英之『白い土地──ルポ 福島「帰還困難区域」とその周辺──』

朝日新聞記者として福島に勤務していた筆者によるルポルタージュ。タイトルの「白い土地」は《白地》という行政用語が元となっている。《白地》とは帰還困難区域の中でも国が除染を進める特定復興再生拠点区域に含まれない、将来的に住民の居住の見通しのまったく立たないエリアのことだ。

筆者は新聞記者として被災地に住み込み、時には新聞配達をしながら現場取材を重ねる。想像するに、こうした過度な現場主義の人間は会社側としては扱いにくい社員なのではないか。しかしこうした記者の存在がなければ被災地の現実は誰にも伝わらず忘れ去られてしまう。

ルポは国や東電の欺瞞を暴き、筆者の問題意識につらぬかれた至言にあふれている。

この国の原子力損害賠償法は原発事故が起きた際、事故の責任の所在を明確にすることなく電力会社に被害の賠償を命じている。(中略) 裏を返せば、「賠償さえすれば、責任の所在は明らかにしなくていい」という原子力行政を進める上で国や電力会社に極めて都合のいい「抜け穴」になっている。(三浦 2020、176)

「風評被害を広げるな」といった文句は、それらが事実であるのかどうかという検証が極めて難しい一方で、攻撃側にとっては容易に報道機関を加害者側に置くことができる。(三浦 2020、204)

 「アンダーコントロール」という言葉こそが今の福島を苦しめ続けている元凶ではないか(三浦 2020、250)

政治家や学者は「想定外だった」と言い訳を述べるが、当然彼らは想定していた。だから福島に造ったのだ。「東京」から十分に距離を置いたのだ。(三浦 2020、262)

三浦英之、2020、『白い土地──ルポ 福島「帰還困難区域」とその周辺──』、集英社。

 

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