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柴崎友香『週末カミング』

深沢潮『翡翠色の海へうたう』

数時間で一気に読み終えた。

主人公はふたりの女性。ひとりは現代を生きる非正規労働の30代の女性。彼女は小説家を目指している。もうひとりは太平洋戦争の最中、戦時下の沖縄で生きる20代の女性。彼女は朝鮮半島の出身で、慰安婦として日本軍に帯同を強いられている。このふたりの女性の物語が章ごとに交互に描かれる。前者の女性は、沖縄の慰安婦を題材に小説を書こうと取材をすすめるが、友人や取材先で出会った人や編集者から慰安婦をテーマにするのはやめた方がいいと言われ葛藤する。後者の女性は、まさに地獄絵図だ。日々兵士から凌辱され戦場の中をさまよう。そして最後にはこのふたつの物語が重なり合う。テーマどうこうではなく小説としておもしろい。

決して慰安婦「問題」を取り上げた小説ではない。時代を越えて、社会の隅に捨て置かれ虐げられるなかで、もがき苦しむ人間の物語だ。

巻末に参考文献が4ページにわたって記されているのに驚く。学術論文のようだ。こんな小説は数少ないだろう。当事者ではない作者が丹念に歴史の事実に向き合ったことが伺い知れる。説得力ある物語になっている理由がこうしたところに表われている。

深沢潮、2021、『翡翠色の海へうたう』、KADOKAWA。


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