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柴崎友香『週末カミング』

映画『国葬の日』

これほど作り手の主張を表面的には感じさせないドキュメンタリーも珍しいのではないか。昨年9月27日の安倍元首相の国葬、その日の日本各地の人々へのインタビューがスケッチのように散りばめられて、どこにも回収されないままにエンドロール。1年前、国葬の賛否が国論を二分したとメディアが盛んに報じていたが、実際のところは、確固たる自分の考えを持たない人が大多数だったのだと思い知らされる。そればかりか、国葬に関する報道への無知と無関心、さらに言えば、政治への無関心が国論と呼ばれたものの実相だったのであろう。インタビューに答えた女性の一人が、あと1週間もすれば賛成の人も反対の人も国葬のことなんて忘れてしまうと思う、と言っていたのが印象に残る。かく言う自分もその一人だ。

岸田首相は国葬後に、検証をしっかり行うと語っていたが、実際には参列者は非公開、今後のプロセスも何も決めずに幕引きをしたようだ。こうした政府の姿勢に国民は慣らされてしまっている。作り手の主張、問題提起が映画を観終わった後にじわりと伝わってくる。実に静かな、そして背筋が凍るような日本の現実。

監督:大島新、2023、『国葬の日』。
映画視聴日:2023年9月19日
映画館:ポレポレ東中野

映画修了後、大島監督と小説家深沢潮さんのアフタートーク。


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