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先月7月、森村誠一が亡くなった。自分は数冊の著作しか読んでいなかったが、近年朝日新聞の「声」という投書欄に時折森村の投稿を見かけることがあった。投稿の内容は安倍政権下での集団自衛権の行使容認や特定秘密保護法といった日本を再び戦争する国にしかねない政権の動きを強く批判するものだったと記憶している。小説家が一般の投書欄に、政治や社会に批判的な自分の立場を投稿する例は多いとは言えないので自然と目が向いた。
『悪魔の飽食』は最初に出版された1983年、ベストセラーになっており当時大学生だった自分も読んだ。内容の恐ろしさは覚えているが、当時は背景となる歴史の知識が足りていなかったためそれ以上心に留まることはなかった。
数年前に文庫になったこの本を再読し内容に圧倒された。そして森村の訃報に接し、再び読み返した。これを執筆している当時の森村は『人間の証明』以降次々と推理小説の作品を発表している最も多忙な売れっ子作家だったはずたが、それと並行して、このようなルポルタージュを書いていたということだけで驚嘆に値する。しかも歴史に埋もれてしまわないように書き残す強い使命感を行間に感じる。
『悪魔の飽食』を執筆した真の意図は、侵略軍のもつ残酷性の剔出やその罪業の告発自体にはなく、戦争を知らざる世代にその実相を伝え日本人が同じ轍を踏むのを防ぐことにある。それは戦争体験者の義務であると信じている。(森村 2012、4)
森村誠一、2012、『新版 悪魔の飽食──日本細菌戦部隊の恐怖の実像!──』、KADOKAWA。
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