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とても良い本にめぐり会えた。たまたま聴いていたラジオでこの本が紹介されていて興味を持ち、図書館で借りて読んだ。
著者は、ホスピス緩和ケアの音楽療法を専門とする米国認定音楽療法士。終末期の患者を対象にした音楽療法でのセラピストである。このような専門資格や仕事があることを初めて知った。この本は主に著者がアメリカで音楽療法士として出会った人たちの話が綴られている。
重要な前提として、本の題名こそ『戦争の歌がきこえる』となってはいるが、著者が「戦争の話を聞き出すこと」を目的としてセラピーをおこなったのではなく、あくまでセラピーの過程で患者の方がその話題を語り出したという流れである。
戦争経験者の多くは戦後、その記憶を語らずに生きてきた。でも、そのような記憶は人生の最期によみがえる。(中略) 人間は死に直面したとき、過去を必ず振り返る。そして、長いあいだ逃れようとしてきた記憶こそ、頭に浮かぶものなのだ。私たちは人生の最期、過去から逃れることはできない。(佐藤 2020、10)
サイパンで日本兵を殺したことを告白する退役軍人。フィリピンで日本兵に親友を殺され、その後広島で焼け野原を見た男性。罪悪感に悩まされつづけた原爆開発の関係者。などなど。今まで日本側の戦争手記には何度も接したことはあるが、敵側のこうした告白は初めて読んだ。戦争の記憶のおぞましさは敵味方、人種に関係なく人間の心を蝕んでしまうものなのだ。
この本を執筆しようと思ったのは、日本の読者にも、日本の外からの視点で、あの戦争を見つめ直してみてほしいと思ったからだ。(佐藤 2020、223)
著者の仕事に感服するばかりだ。補遺に記された日米の戦争に対する観念の違いも興味深い。
佐藤由美子、2020、『戦争の歌がきこえる』、柏書房。
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